毎年7月に提出が必要な算定基礎届は、従業員の社会保険料を1年間にわたって決定する大切な届け出です。書き方をひとつでも誤ると、社会保険料の計算ミスや従業員への過不足徴収という深刻なトラブルに発展しかねません。とくに2026年(令和8年)は、標準報酬月額の上限引き上げをはじめとした法改正が重なる年であり、最新の情報にもとづいた正確なたいおうが欠かせません。本記事では、2026年の算定基礎届の書き方と社会保険料の計算ミスの防ぎ方を、ステップごとにわかりやすく解説します。
1. 算定基礎届とは何か?目的と提出期限を押さえよう
算定基礎届(被保険者報酬月額算定基礎届)とは、従業員の標準報酬月額を決めるために、事業主が年に1度提出する書類のことです。社会保険料は毎月の給与ごとに細かく変動するのではなく、標準報酬月額という区分をもとに1年間固定されます。そのため、実際の給与とのずれを防ぐために、4月・5月・6月の報酬の平均をもとにして毎年見直す手続きがおこなわれます。
- 提出期限:毎年7月1日〜7月10日(土日祝の場合は翌営業日)
- 対象期間:4月・5月・6月に支払われた報酬
- 適用期間:9月分(10月納付分)から翌年8月分まで
提出が遅れると社会保険料の決定に支障をきたすため、準備は6月中に終わらせることが理想的です。
2. 【2026年必確認】法改正による3つの変更点
2026年(令和8年)は、算定基礎届の書き方に直接かかわる法改正が3点あります。昨年のデータをそのまま引き継ぐと計算ミスの原因になるため、かならず最新の内容を確認してください。
① 厚生年金の標準報酬月額の上限引き上げ
2026年4月から、厚生年金の標準報酬月額の上限が現行の65万円から75万円(第35等級)へと段階的に引き上げられます。対象となる高収入の従業員がいる事業所では保険料の負担が増えるため、事前のシミュレーションをおこなうことが重要です。
② 短時間労働者への社会保険の適用拡大
パートやアルバイトへの加入要件だった月額88,000円以上という収入基準が撤廃されます。算定基礎届の対象者が増える見込みがあるため、従業員の適用範囲をあらためて確認しておきましょう。
③ 現物給与の価額の改定
2026年4月から食事の現物給与価額が変更されます。さらに同年10月からは、住宅の現物給与価額の算定が「居住室面積から総面積(玄関やトイレを含む)」へと変わります。最新の都道府県別・現物給与価額一覧表での確認が欠かせません。
3. 算定基礎届の対象者と非対象者をきちんと分類する
誰を記載すべきかを正確に把握することが、書き方の最初のステップです。
提出の対象となる従業員
7月1日時点で社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入しているすべての従業員が対象になります。育児休業中や病気療養中の従業員も対象に含まれます。70歳以上の従業員については、厚生年金の資格を喪失していても「70歳以上被用者算定基礎届」を別途提出することがひつようです。
提出の対象にならない従業員
つぎの条件に当てはまる従業員は対象外となります。
- 6月1日以降に入社した人(資格取得のタイミングで標準報酬月額が決定済み)
- 6月30日以前に退職した人(7月1日時点で被保険者でない)
- 7月に月額変更届を提出する人(随時改定が優先されるため)
対象者の分類を誤ると記載漏れや不要な記載が生じ、社会保険料の計算ミスにつながります。
4. 2026年版・算定基礎届の書き方ステップガイド
STEP1:支払基礎日数を確認する(⑩欄)
月給制の場合は、原則として暦日数(4月なら30日、5月なら31日)を記入します。欠勤控除があるばあいは「所定労働日数から欠勤日数を引いた日数」となります。パートやアルバイト(一般的な短時間就労者)の場合は、出勤日数に有給取得日数を加えた数値を記入してください。特定適用事業所の短時間労働者は「11日以上」が算定の基準となるため、備考欄の「6. 短時間労働者」に〇をつけます。
STEP2:報酬額を正確に記入する(⑪〜⑬欄)
⑪通貨欄には、基本給・残業手当・通勤手当・住宅手当など現金で支給された合計額を記入します。⑫現物欄には、食事や社宅などを2026年改定の最新価額に換算した金額を記入します。⑬合計欄は⑪と⑫の合算額です。
通勤手当を半年分まとめて支給しているばあいは、支給月に全額を計上するのではなく、1ヶ月分に割り戻した金額を各月に計上することがひつようです。この処理を忘れると報酬額が大きく歪んでしまいます。
STEP3:平均額を算出して標準報酬月額を決める(⑭⑮欄)
⑭総計欄には、支払基礎日数が17日以上の月の報酬合計のみを記入します。17日未満の月は算定から除外されます。⑮平均額欄は⑭を対象月数で割った金額(1円未満切り捨て)です。この平均額を保険料額表に当てはめることで、あらたな標準報酬月額が決まります。
5. 社会保険料の計算ミスを防ぐ賃金台帳チェック4項目
算定基礎届における社会保険料の計算ミスは、賃金台帳の集計の段階で起きるケースが大半を占めます。以下の4項目を漏れなく確認しましょう。
① 報酬の範囲を正しく把握しているか 通勤手当(非課税分を含む)や住宅手当は報酬に含みますが、出張旅費の実費精算や年3回以下の賞与は含みません。所得税法上の「給与」と社会保険上の「報酬」は定義がちがうため、混同に気をつけることが大切です。
② 支払基礎日数のカウントが正確か 末締め・翌月払いのばあい、4月に支払われる給与の支払基礎日数は「3月分の暦日数(31日)」になります。給与計算システムの自動集計と賃金台帳の数値が一致しているかを目視でたしかめることが肝心です。
③ 残業代や手当の計上漏れがないか エクセルで給与計算をしているばあい、セル参照のずれによって残業代が合計から外れることがあります。賃金台帳の「総支給額」と算定基礎届の「通貨によるものの額」を必ず突き合わせましょう。
④ 現物給与の価額は2026年版を使っているか 昨年のデータをそのまま引き継がず、2026年4月改定後の食事・住宅の換算価額で計算します。価額は都道府県ごとにちがうため、管轄の最新一覧表を参照することが不可欠です。
6. 社会保険料の計算ミスが発覚したときの4ステップたいおう
どれだけ注意しても、後から計算ミスが発覚することがあります。発覚したばあいは、つぎの手順で速やかにたいおうすることが重要です。
ステップ1:従業員への説明と謝罪 給与からの天引き額に誤りがあったことを誠実に伝えます。いつ・どのように精算するかを明確に説明することで、従業員の不信感を最小限に抑えられます。
ステップ2:年金事務所への訂正届の提出 標準報酬月額が誤っているばあいは、「被保険者報酬月額算定基礎届訂正届」を年金事務所に提出します。正しい標準報酬月額をもとに社会保険料を再計算し、修正した給与明細を再発行してください。
ステップ3:過不足の精算 多く徴収した分は返金し、少なく徴収した分は追加徴収をおこないます。労働基準法第24条の「賃金全額払いの原則」にもとづき、当月中に現金で精算することが最善のたいおうです。翌月以降に繰り越すばあいは、かならず従業員の同意を得てください。
ステップ4:再発防止策の徹底 計算ミスの原因を特定し、給与計算フローを見直します。クラウド型給与計算ソフトへの切り替えや、社会保険労務士によるチェック体制の構築が、計算ミスの再発を防ぐうえで効果的です。
まとめ:2026年の算定基礎届は早めの準備と法改正の確認がかぎ
算定基礎届の書き方を正確に実行するためには、2026年の法改正の内容を把握したうえで、賃金台帳を丁寧にチェックする体制を整えることが欠かせません。標準報酬月額の上限引き上げ、適用拡大、現物給与の価額改定という3つの変更点は、いずれも社会保険料の計算ミスに直結します。
対象者の分類から始まり、支払基礎日数の確認、報酬額の正確な記入、平均額の算出という各ステップを丁寧に進めることが、ミスのない手続きへの近道です。複雑なケース(途中入社・休職・短時間労働者など)で判断に迷うばあいは、社会保険労務士への相談も有効な選択肢のひとつです。6月中に準備を終えることで、安心して算定基礎届の提出を迎えられます。