職場内いじめは、現代の労働環境において深刻な問題となっています。被害者にとって精神的・身体的な苦痛を与えるだけでなく、企業全体の生産性低下や法的リスクをもたらす重大な課題です。
職場内いじめとは何かを正しく理解する
法的な定義と判断基準
厚生労働省による職場内いじめの定義では、次の3つの要素すべてを満たす必要があります。まず、職場における優越的な関係を背景とした言動であること。次に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること。さらに、労働者の就業環境が害されるような言動であることです。
重要な点として、被害者が「いじめ」と感じただけでは法的には認定されません。裁判所は「平均的な心理的耐性を有する者」を基準として、客観的に判断するためです。
6つの典型的な類型
職場内いじめには、以下の6つの類型が存在します。身体的な攻撃(暴行・傷害)、精神的な攻撃(脅迫・侮辱・暴言)、人間関係からの切り離し(隔離・無視)、過大な要求(遂行不可能な業務の強制)、過小な要求(能力に見合わない低い業務の命令)、個の侵害(私的なことへの過度な立ち入り)です。
特に精神的な攻撃については、「無能」「アホ」といった人格否定の言葉や、同僚の前での執拗な叱責が該当します。業務に必要のない言動は、業務の適正な範囲を超えると判断されるでしょう。
実際の判例から学ぶ職場内いじめの境界線
深刻な被害認定事例
川崎市水道局事件では、内気な職員に対する悪質ないじめが自殺を招いた事例として、約2350万円の損害賠償が命じられました。「むくみ麻原」と呼んで嘲笑したり、「今日こそは切ってやる」と脅迫したりする行為が認定されています。
誠昇会北本共済病院事件では、先輩による3年間の執拗ないじめが問題となりました。勤務時間外の雑用強制やプライベートへの介入、「死ねよ」という発言が自殺の原因とされ、計1500万円の慰謝料支払いが命じられたのです。
適切な指導と判断された事例
一方で、バイエル薬品事件では、部下の会議での集中不足や取引先把握不足への注意指導が争われました。しかし、裁判所は「合理的理由に基づく適切な指導」として、パワハラ認定を否定しています。
医療機関での看護師指導事例では、ミスを繰り返す看護師への長時間指導について争われました。医療現場の特性上、正確性・安全性が重視されるため、配慮を欠く点があっても直ちに違法とは言えないと判断されたのです。
職場内いじめへの効果的な対処法
被害者が取るべき具体的な行動
職場内いじめの被害に遭った場合、まず明確な拒絶の意思を示すことが重要です。可能な範囲で速やかに拒絶することで、相手にいじめの認識を持たせることができます。
証拠の収集は極めて重要な要素となります。音声録音や動画、メールやビジネスチャットの記録、詳細な日記やメモ、他の社員による目撃証言、病院での診断書などを可能な限り集めましょう。特に「いつ、どこで、誰に、何をされたか」を具体的に記録することが効果的です。
相談先の選択と活用方法
社内相談窓口への相談は、企業にハラスメント防止義務があるため、加害者への注意や懲戒処分、人事異動などの対策につながる可能性があります。ただし、上司が加害者の場合には、より上位の管理職や人事部門への相談が必要でしょう。
外部の相談先としては、都道府県労働局での事実確認や指導、和解の仲介サービスが利用できます。法テラスや「みんなの人権110番」などの公的機関、専門弁護士への相談も有効な選択肢です。
法的手段による解決
加害者に対しては、不法行為を理由とした損害賠償請求が可能です。いじめの態様によっては、暴行罪・傷害罪・脅迫罪などの刑事責任を問うこともできるでしょう。
慰謝料の相場は事案の程度により大きく異なります。軽微なケースでは20万〜30万円程度、自殺に至る重大なケースでは1億円を超える賠償が命じられる例もあるのです。
企業に求められる責任と防止策
法的義務と組織的な取り組み
2022年4月から、中小企業を含むすべての企業に職場でのパワハラ防止措置が義務化されました。企業は使用者責任や安全配慮義務違反として法的責任を負う可能性があるため、積極的な対策が必要です。
ハラスメント防止方針の明確化と従業員への周知徹底は基本的な要件となります。パワハラは許されない行為であることを明確にし、全社的に浸透させることが重要でしょう。
実践的な予防措置
指導書の作成や指導方法の研修実施により、適切な指導のあり方を学ぶ機会を定期的に設けるべきです。企業法務専門の弁護士や外部機関による研修は、パワハラの事例や判例の知識共有に効果的となります。
相談窓口の設置と担当者の明示では、人事・ハラスメント担当者を明確にし、外部の弁護士や内部通報サービスの活用も検討すべきです。社内で相談しにくいケースへの配慮も欠かせません。
証拠保全とリスク管理
業務メモやメールの適切な保存により、後の証拠として活用できる体制を整備することが重要です。ハラスメントのヒアリング時には、ICレコーダーでの録音により、やりとりの適切性を確認し、証拠として残すことができるでしょう。
健全な職場環境実現への道筋
組織文化の変革
職場内いじめの根絶には、組織全体の意識改革が不可欠です。トップダウンでの方針示達と、現場レベルでの具体的な行動変容を両輪として進めることが効果的となります。
定期的な研修やワークショップを通じて、適切なコミュニケーション方法を学び、相互尊重の風土を醸成することが重要でしょう。管理職には特に、指導とハラスメントの境界線についての深い理解が求められます。
継続的な改善システム
職場環境の改善は一時的な取り組みでは実現できません。定期的な職場環境調査や従業員満足度調査により、問題の早期発見と対策立案を継続的に行うことが必要です。
相談窓口の利用状況や解決事例の分析を通じて、より効果的な予防策や対応策を検討することも重要な要素となります。従業員からのフィードバックを積極的に収集し、改善につなげる仕組みづくりが求められるでしょう。
まとめ:すべての働く人のために
職場内いじめは、被害者の人生を大きく左右する深刻な問題です。適切な知識と対処法を身につけることで、被害の拡大を防ぎ、健全な職場環境の実現につながります。
企業には法的義務を超えた積極的な取り組みが求められ、労働者には自らを守るための行動力が必要となります。すべての人が安心して働ける職場の実現に向けて、個人と組織が連携した継続的な努力が不可欠でしょう。
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